紐作りは陶芸の基本中の基本です。
紐作りが上手くできるようになれば、小物から大物、湯呑から、花瓶、蓋物ものまで自在に作れるようになります。 でも、長い間陶芸をやっていても、芯が出せない(ぶれる)、ぶよぶよの作品になり上手く筒上げが出来ないなどの悩みを抱えている方も多いようです。
確かに、真っ直ぐな筒上げを30cm位上げるのはベテランの陶芸愛好家でも難しいことですが、電動ろくろにしても、手回し轆轤での紐作りにしても、この技術(筒上げ)をマスターすれば、作品の出来栄えが格段に向上することは間違いありません。
陶芸初心者には、紐作りをマスターすることが必須条件です。 この技術を覚えないで、先へ進んでも、いずれ頭打ちになるのは明白です。
この技法をおさらいのつもりで整理して見ます。初心者から、ベテランさんまでも参考になり、技術が格段にアップします。
紐作りに必要な道具
手回し轆轤を使った紐作りは、最低限土の道具で、ぐい飲みから大物花瓶なども作れます。
上の方から:
ノギス(又は物差し)、弓、木小手、柄ごて、掻きベラ(大、中)、竹串、針、なめし皮、しっぴき(粘土を切る糸)、轆轤。轆轤以外は、スターターキットとして陶芸道具が1000円+で売られてます。 自宅陶芸を始めるのであれば、手回し轆轤と、このスターター工具キットはぜひ購入したいものです。 道具の名前は覚える必要はありません。 その内、自然に覚えて行きます。
後は作品に応じた土を選択します。出来れば仕上がりの釉薬や装飾までイメージして土(色)を選択しましょう。 その為には、焼成サンプルを見て、色目や発色を確認しましょう。
焼成サンプルの例です。 信楽の白粘土をベースにして、陶芸教室の釉薬全てのサンプルを作ってます。 この他にも、赤土、半磁土などのサンプルをそれぞれ作ってます。
焼成サンプルがなければ、サンプルを作っても、陶芸の楽しみ方が広がります。
絶対外せない、ろくろ作りのポイント
手回しろくろを使って上手く行かない原因は、沢山ありますが、特に次の2点を頭に置き作陶の作業をしましょう。
- 轆轤はしっかり回します。 ろくろは手でしっかりと回し、この回転の力を使って成型をします。
- 道具は固定して使います。 いろいろな道具は、基本的には、一点で固定をして使います。
- 周りの生徒さん仲間を見て下さい。 上手い人ほど、ろくろを回して、そして道具の使い方が上手です。 同じ道具を使っても、道具の持ち方、道具を当てる位置、又、道具を面で使うのか、点で使うのか、そこには微妙なコツが沢山あります。
紐作りの手順 YouTube
百聞は一見に如かずと言う言葉があります。 特に陶芸の初心者の方たちにとっては、専門用語が沢山ありますので、言葉では理解しにくいと思いますので、このYouTubeビデオを見て下さい。 20分ほどと少し長編ですが、紐作りで円筒をつくり、花瓶を作っているものです。
動画を再生して部分部分で停止させて、説明を読んでみると分かり易いでしょう。動画は、このブログに埋め込まれてますので、YouTubeにジャンプすることはありません。
まだ、組み立ててませんので、首の部分が少し、大きくなってます。
左上のものが円柱で、このような真っ直ぐな、茶筒のようなものを作ることを”筒上げ”と言います。 右下が花瓶の天と首の部分になります。 他の小さなものは、高台の削りを練習するために作った、低い筒です。
このような真っ直ぐな筒上げをするには、作業のやり方のコツをしっかりと掴む必要があります。
紐作りの手順とポイント
ビデオで、作業の内容がほぼ分かったと思いますので、ポイント、ポイントを説明します。 この花瓶は天板がフラットなため、初心者には一体成型では難しい作品になります。 天板が首の重さや、鶴首の作業で、どうしても垂れてしまいます。このように別々に紐作り成型をすれば、簡単に綺麗に作れます。
後は、筒の部分の底(高台)の削りと胴の部分の削りをして、二つを組み立てれば、完了です。 組み立ては、接合部を針や、歯ブラシで荒らし、同じ土(友土と言う)を水で溶かしたドロドロの土(どべ又はぬたと言う)を塗り、しっかりと圧着し、接着します。
マグカップの取っ手なども、どべで接着したもので、どべは、粘土に水を加えて乳鉢ですり、生クリーム状にしたものです。 又、電動ろくろで、水挽きをしたときで出るどろどろとした泥しょうなどをどべとして容器に入れて保存しておきます。
この接着を上手くやらないと、焼成で剥離したり、隙間が出来ます。 同じ土のどべを使うのは、土の収縮率を合わせるためです。
乾燥しても取っ手を持つことは厳禁です。 素焼きが終わり、本焼きで釉薬のガラス成分で取っ手が覆われるまで、強度が弱く破損や、剥離の原因になります。
高台作りのポイント
高台は、花瓶や湯呑の底の部分になります。
そしてここが紐作りの基礎になる部分です。この基礎の上に紐を載せて、筒を作って行きます。 左の丸い部分が高台になります。この高台と底を作るための作業です。丸い高台の部分は、半乾燥後、削りで作ります。(この作品は抹茶茶碗です。作品によってその高台の形や大きさは変わります。)
この作品の場合は、筒の形状を変えたくないため、高台脇(外側)は削らず、高台内のみを削ります。高台を付けない場合は、高台を5mm程度にして底の中心を下から、少し押し込んでやります。 この技法を碁の碁石を入れてある入れ物の形状に似ていることから、”碁笥底”と言われます。”後家”ではありません。
- 直径100㎜ x 厚み10㎜ 直径100㎜にする理由は、手や小手が入るサイズだからです。
- 轆轤中心に丸い粘土置き、轆轤を回し、手の平で一点をたたき、平にする。(あちこちを叩かない)
- 土が均等に10㎜位になれば、針を刺して厚みを確認します。アバウトで結構です。
- 円切り: 竹くしで、100㎜のところを切ります。轆轤を回して、竹くしは1点で固定して(脇を締め、手と指先を固定する。)軽く当たり線を付け、物差しで測り、直径の大きさがよければ、更に深く切り円盤を作ります。
この高台つくりが上手くできない人がいますが、その原因は➀轆轤が回せていない。➁竹串が回転に負けて、動いている。針は少し斜めにして、又、少しずつ深く切って行きます。➂ゆっくりと切って行く(切り口を深くする)一度に切ろうとすると上手く切れません。 半分位切れれば、轆轤を止めて、竹串などで、線に沿って切って行っても大丈夫です。
紐作り
土台と一段目の削り
紐積では、手締めになりますので、厚みのバラツキがどうしても出ます。 そこで、内側は小手で平坦に仕上げます。 そうすることで厚みのバラツキは外に出ることになります。 この飛び出た厚みを、外側を掻きベラで削ってやって、均一な厚みにします。
高台と一段目の紐作りが、2段目以降の基準になりますので、最後に、掻きベラで、外側を少し削り、真円にします。締めと寄せ、小手での内外の均しで、芯が出ているはずですので、今の段階では、振れはほとんどないほどに仕上がっているはずです。 この時点で振れがあれば、この作業が出来ていません。 もう一度、締め、寄せ、均しをやります。
削りは6時の方向から削りベラを当てれば、轆轤の回転に負けません。掻きベラの角で当てれば、点で削りができますので、削りは簡単になります。最後の仕上げは面で行いスムーズに仕上げます。
2段目以降の紐積
- 一段目が出来たら、2段目を積みます。両手の指で紐の両端をつまみ持ちます。一段目の紐の真上に紐を載せ、右手親指で紐の三分の一の部分を下に伸ばしながら、12時の位置で積んで行きます。この作業で轆轤は自然に回ります。ここがポイント:作業は同じ位置で。。どこでも構いませんが12時の方がやり易いでしょう。
- 一周したら、紐を切って繋ぎ。内側継ぎ目を小手で均して潰します。内が綺麗になったら、外側継ぎ目の溝を小手で土を上下から伸ばして均します。 溝痕が残るのは接着不良と割れの原因になります。
- 次は、一段目と同じ要領で、両手で絞めて寄せての作業で厚さを整え、木小手で、内側・外側を均していきます。内側を均すと、土が横に広がりますので、又、絞めて寄せる作業をやり、また、小手で、内外から均します。 木小手で内外から均すと共に、芯を出し、締め・寄せの作業を繰り返します。
- 上に伸びた土は高さが変わって、この高低差が大きいと、ぶれの原因になります。そこで、弓や針で切り高さを整えます。切った後は、なめし皮を水に濡らして、締めます。 この作業には土を締めてやると言う目的と、乾きやすい口縁に適量の水分を与える事があります。 この締めや、水分の補給が甘いと、割れの原因になります。 なめし皮は、濡らすことでぬるぬるになります。 この皮を絞って口縁を締めます。 過多の水は厳禁です。
- このなめし皮の作業には、口縁を締め、水分を補給してやる以外に、もう少しポイントがあります。 それは、口縁の芯を作ることです。一か所で絞めてやると口縁のぶれがなくなります。(ぶれを取ると言う) 最後にもう一つ、口縁の厚みを整えます。なめし皮を巻いた親指と人差し指で、軽く挟むことで、口縁の厚みが薄くなります。
- 口縁の部分は、もっとも目立つところですので、綺麗に、そして品良く仕上げます。
- 後はこの作業の繰り返しです。 一段目と2段目が成功のポイントで、後は必要な高さまで紐を積んで、まっすぐな筒を作っていきます。 絶対に膨らませようとしてはダメです。 これをずん胴をつくると言います。
- 膨らませたかったら、木小手などで、内側から、筒上げが終わった段階で仕上げます。
- 2段目が出来たら、3段目、そして4段目へと同じ作業を続けて行きます。 3段目で、100㎜以上の高さになります。(写真の作品の胴は、110㎜でした)
失敗に学ぶ。こうすれば失敗しない。
壁がペラペラになり真っ直ぐ積めない
- 原因: 土の締め方で、寄せる作業が出来てません。両手で、挟むだけでは、土は、上と横へ伸びて行きます。
- 対策: 指で挟んで、そして、挟んだまま、両手を互いに寄せて行きます。親指と人差し指で挟んだまま、左右の手をぶつける感じで寄せることで、横に広がった粘土が、横に絞められます。 この結果、粘土は上のみに伸びて行きます。
- 寄せると言う作業は言葉では説明しにくいのですが、左手指を時計の短針の11時半の位置、右手を12時半の位置で挟み持ち、挟んだまま、12時の位置に寄せていくと想像してください。 イメージ涌きましたか?
芯が出ない
- 原因: 上と共通の問題で、横方向への締めが出来ていないためです。又、小手の当て方が間違ってます。締める作業が一点で出来ていない
- 対策: しっかりと前述の”締めて寄せる”作業をします。 その際、12時の位置など一点でやります。
- そして、小手を内・外からしっかり当てます。 特に内側の芯が出るように一点の位置で
- 小手の当て方は、面より点で当てます。この方が力が加わり、簡単に修正出来ます。外からの小手の当て方は、4~6時の方向で行います。この方が轆轤の回転のスピードに負けません。
小手がレコード針の症状になり、上手く仕上げれられない
- 原因: 轆轤の回転の力に負けているため、低いところはより低く、高いところはそのまま高く、いわゆるレコード針のようにいつまでもふらふらになってます
- 対策: 道具は出来るだけ根元を持ちます。
- 小手は点で当てます。 面では、力負けします。 又、小手を当てる方向は大事で、例えば3時の方向では、レコード針現象になります。 小手は、4~6時の方向から点で当てます。
- 又、小手は、土が下から上へ持ち上がる方向へ当てるのが大事です
- 繰り返しになりますが、小手は力負けをしないように、根元にできるだけ近いところを持ちます。脇を締め、小手を右手で持つのであれば、左手で右手を固定します。
以上の要点を守って作陶をすれば、見違えるような作品になります。 後は沢山の作品を作って、多くの経験を積み自分なりのノーハウを積み上げて行く=陶芸の技術の向上になります。 陶芸の上手い下手は、年数ではなく、いかに多くのコツを掴むかにあるように思います。
Good Luck!